2025.12.17 / Topics
森と建築をつなぐサプライチェーン
木材がどのように森から建築へたどり着くのか──。
素材の背景を理解することは、サステナブルな建築を実現するうえで欠かせません。
近年は FSC®認証 に代表される森林認証制度の普及により、木材の「生産地・流通・加工」を透明化する動きが広がっています。
建築士やデザイナーにとって、素材の背景を把握することは、単なる“素材の選択”ではなく、森林や建築の未来を左右する選択になりつつあります。
森から建築へ ― 木材流通の仕組み
木材が建材として現場に届くまでの基本的な流れは、次のステップで構成されています。
①森林管理・伐採(林業)
適切な森林管理計画のもと伐採が実施される。
②原木市場・流通
丸太が市場に集荷され、製材工場が必要な材を選別して買い付ける。
③製材・乾燥・加工
製材→乾燥→その他加工などが行われる。
④建設現場へ出荷
建築会社、工務店や木工所に納材され、構造材・内装材・造作材・家具などとして形を変える。
トレーサビリティと森林認証がもたらす透明性
木材のトレーサビリティ(生産履歴の追跡可能性)を公開することは、企業にとってリスクとして捉えられる場合もあります。
しかし、その“透明性”を積極的に保証し、価値に変えている仕組みが森林認証です。
森林認証材を使うことで得られるメリットは次の通りです。
・伐採された森林の場所が明確になる
・違法伐採材の混入を排除できる
・生物多様性に配慮された森林からの木材であることが保証される
・適切な再造林が行われ、持続可能な森林管理が維持されていることを確認できる
日本では主伐後の再造林率が約4割にとどまるという調査もあり、半数以上の森林が次世代へ引き継がれていない現状があります。
建築のサステナビリティを成立させるには、まず材料そのものが持続可能であることが前提です。
その意味でも森林認証材は、木材の透明性を重視する建築士・デザイナーにとって優れた選択肢と言えます。
地域材の流通と“県産材”という選択
森林認証とは別の枠組みとして、県産材認定制度により地域材の産地が証明されるケースがあります。
県産材認定材は
・どの地域の森林資源を使ったかが明確
・地域経済の循環を生み出せる
・地元の林業振興に寄与できる
といった特性があり、地域文化・地域性を取り入れたい建築に適しています。
森林認証材が「環境まで含めた価値」を担保するのに対し、県産材は「地域に貢献できる価値」を提供します。
この二つは、建築の目的に応じて使い分けられる重要な選択肢です。
持続可能な建材調達のために必要な視点
建築で木材を扱う際は、「どの木を使うか」だけでなく、その木が“どのように森から現場に届いたのか” を理解することが求められます。
・森林資源の適切な管理
・地域林業との連携
・木材トレーサビリティの確保
・FSC認証などの森林認証材の活用
・県産材認定材の積極的利用
木材供給者が素材の背景を開示し、建築家・デザイナーがその情報を理解して選択することで、建築は“森を未来へつなぐ循環”の一部になります。
まとめ
木材の流通プロセスを透明化することは、単なる「情報公開」ではありません。
それは、建築の提案力と価値を高め、施主の信頼を獲得するための重要な要素です。
これからの建材選びは、その木がどこの森で育ち、どのような流通を経て届いたのかまでを語れる時代へと変わりつつあります。
木材の背景を理解することは、建築そのものの質を高め、森と建築を持続的につなぐ第一歩となります。